
最近見た映画は以下の二つであるが、雰囲気は全く異なり、ファン層も著しく異なる。ただ、往年の映画ファンからすればいずれも甲乙つけがたく、「心に残る佳品」であることは間違いないように思う。
一つは吉永小百合の「こんにちは、母さん」である。ほぼ同年代で80歳近くにもかかわらず、今なお若々しく魅力を失わないのは、「サユリストを公言してはばからないタモリや松本人志」等等多くのファンの心をわしづかみしている。メガホンを握ったのが、好きな名優高倉健や渥美清そして倍賞千恵子を生んだ山田洋二監督であるのも素晴らしい。
(こんにちは、母さん)
いつまでも美しい母親役の吉永小百合の魅力とともに、彼女の息子としてユーモアたっぷりに主役を演ずる大企業人事部長役の大泉洋の演技もたまらない。同期入社の親友がリストラ対象となり、人事部長として悩みが尽きない。足袋職人の夫を失った母親(小百合)は、時折ミシンを踏みながら東京の下町でボランテイア活動に生きがいを見つけ、ひっそりと暮らしている。母親の恋人である牧師役が、あの「ルビーの指輪」で一世を風靡した寺尾聡である。年老いた二人はお互いに惹かれあうが、運命のいたずらか牧師の北海道転勤話が持ち上がる。永く染みついた下町暮らしから離れられない母親は、悩みに悩んだもののついていくことをあきらめ、「晩年の恋」は終わる。一方、人事部長の息子は、会社ではリストラ対象になった親友の割増退職金を無断で増やし、引責辞任に追いこまれる。私生活でも、キャリアウーマンの妻とは別居生活が長く続いているが、おばあちゃんっ子である愛娘(永野芽郁)の「クールで現代的な裁断」もあり、渋々離婚届に判を押す。昔の母子に戻った二人(小百合と洋)は、かって見上げた「隅田川の花火」を眺めながらぽっかり空いたお互いの心を慰めつつスクリーンは静かにラストを迎える。
原作は日本を代表する劇作家の永野愛が手掛けた舞台作品で、2001年に新国立劇場で上演されて話題を呼び、04年にも再上演されている。山田監督は、その後約20年間「令和の時代に置き換えたらどうなるだろう?」と自問自答、21年1月、吉永小百合にこの作品の話を持ち掛けたところ「ぜひやらせ手ほしい」とその場で応じてくれ、その母親の魅力を惹き出せる息子役はユーモアセンス抜群の大泉洋しかいない、と思いつき一気に映画化が決まったという。映画化に伴い、やはり巨匠の千住明が音楽を担当、作品の輝きにメロデイーの色を添えている。
(沈黙の艦隊)
次いで印象に残ったのは、大沢たかお主演の戦艦映画である。彼は主役とともにプロデューサーとしても加わり、映画化に際して防衛省や海上自衛隊幹部に直接折衝するなど獅子奮迅の大活躍で、見事なエンターテインメント作品となっている。
監督は44歳の気鋭映像クリエーター吉野耕平で、国際映画祭や日本アカデミー賞などでも「最優秀作品賞」を受賞する世界的な映像監督でもある。
原作が描かれたのは30年以上前だが、むしろ今のほうがリアルで色鮮やかに感じられるとプロデユーサー大沢は語る。日本や未来についての考え方でも納得できるところがあって、そうしたテーマやメッセージを押しつけがましくなく、エンターテインメントのアプローチで描く作品が日本にもあっていいんじゃないか、というのが出発点だった、と彼は説く。
ストーリーは、日米で共同開発した最新鋭の原子力潜水艦(シーバット)の艦長海江田(大沢たかお)が核ミサイルを積んだまま反乱逃亡するところから始まる。テロリストとの烙印を押され、シーバットの後任艦長(玉木宏)に追撃され、米艦からも集中砲火されるが、見事な操艦技術を駆使して戦火を潜り抜け「独立国やまと」の建国を宣言、日米首脳とのし烈な交渉もものともせず、ラストではこの独立国が日本とそして米国とも同盟関係を締結し平和裡に終結する。
脇役陣も多彩で、気弱な総理役に笹野高士、影の総理に橋爪功、そして防衛大臣には夏川結衣を配し、アメリカ人の脇役陣として大統領や太平洋艦隊司令官なども登場して海戦が盛り上がる。
大沢たかお(55歳)は、このところ役者としても頭角を現しつつあり、故田村正和の寡黙にしていぶし銀のような演技ぶりに惹かれてやまないという。モデル出身で180センチの長身に身を包んだ軍服姿がよく似合い、三船敏郎や高倉健、渥美清といった名優たちが姿を消した今、大泉洋のほか、松坂桃李、岡田准一らとともに、これからの活躍が楽しみである。