
パルムドール「最高賞」作品の話題作「パラサイト・・半地下の家族」を近場のシネコンイクスペアリ舞浜で観た。韓国映画界の巨匠ポン・ジュノ監督とスーパースターのソン・ガンホ主演の本格作品で、格差社会の生んだ悲劇を生々しく描いたものである。今から20年ほど前に、この二人の巨人が絡んだ未解決事件を題材にした「殺人の追憶」を観て激しい衝撃を受けた記憶があるが、ストーリーは異なるが同じような衝撃が走った。ポン・ジュノの手腕は比類なきエンターテインメントとして世界の映画界を揺るがしてはいる。日本では黒澤明という巨匠が世界の映画界を席巻した一時代があるが、最近はスケール感で一歩遅れを取っているように思えてならない。
ただ、これからはあくまで私見であるが、「この作品は日本人には違和感がぬぐえないのでは?」というのが率直な感想である。世界的に格差社会が問題視され、今回は韓国の格差社会に照準を当てたタイムリーな作品ではある。家族4人全員失業中の一家が目指すのは、高台にあるIT企業経営者の豪邸と美しい妻をはじめとする4人家族、いかにそこにパラサイトしていくか?ストーリーは比較的単純だが、展開はスリルとサスペンスがたっぷりで、鳥肌が立ち、悲劇的な結末が待ち受ける。たった一つの光を残しつつ・・・。
韓国の若者たちの間には「三放世代」(恋愛、結婚、出産をあきらめた貧困世代)、「五放世代」(正規雇用、持ち家もあきらめた貧困世代)、「七放世代」(さらには友人関係、夢をもあきらめた貧困世代)といった言葉が空しく漂う。豪邸に潜入し裕福家族の愛娘の家庭教師をしつつ愛の姿で次第に恋人の座を占めつつあるイケメンの長男が、そこにたった一つの望みを託しながら。彼は父に問いかける。「何かプランは?」長男の問いに父は「プランは何もない。そうすれば失敗しないですむ」そう答える。人生設計して努力しても報われない韓国庶民のあきらめがにじみ出ている。コメデイとしてはじまった「パラサイト」は衝撃の惨劇を迎える。「水石」(自然の象徴的岩石、愛の証でもある)を大事に抱える長男に若者の思いを託し、ラストシーンで父親がその水石を抱えじっと眺めるところで幕となる(殺人者として刑事に追いかけられる父親に息子は果たして無事再会できるか?)。謎めいた期待と余韻を残しつつスクリーンは幕を閉じる。
第二次世界大戦後、日本から独立した韓国は世界最貧国の一つだった。だが、その後50年間でGDPを40倍以上に急成長させた。しかし1997年のアジア通貨危機、バブル崩壊で国そのものが存亡の危機に見舞われ、IMFの資金援助で何とか乗り切ったが、合わせて構造改革も求められた。大規模なリストラや非正規雇用拡大などで中小企業がつぶれ、失業者があふれる一方で、サムソンやヒュンダイなどの巨大企業に富が集中、格差社会の引き金となり、そこへ熾烈な受験競争が加わり、拍車がかかった。
日本では、このような学歴、コネ、富、美貌の相関度が著しく高い韓国型格差社会はなく、友人関係や夢も多岐にわたり、若者の諦観もそこまではない。価値観がもっと多様で、このような格差社会に違和感を持つ若者が多いように思う(「寄生」よりも「共生」に価値観を求める国民性も絡んで)。
見終わった観客の感想からも「ホラー映画のような感じだった」とか「社会問題化しつつある格差社会に照準を当てた作品としての触れ込みだったが、ちょっと溶け込めなかった」といった率直な声が結構聴かれた。
カンヌ国際映画祭で「最高賞」パルムドールに輝き、その後もアカデミー賞「国際長編映画韓国代表」に選出され超一級のエンターテインメントとして本国では観客動員1000万人突破、フランスでも170万人を、さらに米国では2019年の外国映画興行収入第一位を獲得、27か国で韓国映画の歴代動員記録を塗り替えるなど全世界で爆発的盛り上がりを見せる傑作の日本上陸であるが、果たしてそこまでの人気を博するかどうか?ただ、このような格差社会への警鐘として本作品を作り上げた監督の意図(手腕)が見えなくもない。