
山本周五郎は司馬遼太郎、藤沢周平と並んで大好きな作家である。
この三人の作品は、かつてむさぼるように読みふけり、書斎にも今もなお多くの作品が並んでいる。
この難しい時代に最も読んで教わるところの多いのが司馬遼であろうが、肩の凝らないところで気軽に読めるのが、周平と周五郎の東北生まれの二人の作品である。
周平は数年前から書棚から引っ張り出し、懐かしく思い出しながら次々と読み干し、このところはまっているのが周五郎である。
「青べか物語」
「さぶ」
「あんちゃん」
「赤ひげ診療譚」
「寝ぼけ署長」
「日日平安」
「日本婦道記」
「人情武士道」
これでは、周五郎も気軽すぎる。
そこで最近読み返しているのが、長編物である。
彼の本格的長編小説には、「樅の木は残った」と並んで「ながい坂」という作品がある。
仙台藩の重臣原田甲斐を題材にした「樅の木は残った」は有名で、かつてむさぼるように読んだ記憶があるが、それほどの人気作品にはならなかった「ながい坂」を今回新しい目で読み返してみた。
下級武士の子に生まれた小三郎は8歳の時に経験した屈辱的事件に憤り、人間として目覚め学問と武道に大いに励む。
彼の生きざまは若き主君飛騨守昌治の目に留まり、その後三浦主水正として苦しみ悩みながらも長い坂を一歩一歩踏みしめ、最後には城代家老としての要職を任される。
私生活でも,気位の高い「つる」という正妻とは当初必ずしもしっくりせず、互いに心をかよわす「ななえ」とのあいだに2人の子供を授かるが、運命のいたずらに翻弄され悲しい別れが待ち受ける。
その後、「つる」とは身も心も打ち解けるようになるが、子供を作ることはなく、孤独で厳しい人生を歩む。
全編に哀感の漂うこの作品は、ある徳川家康研究家によると「思いに荷物を背負って長い道を行くがごとき主水正の生きざまは家康を彷彿とさせ、同時に周五郎自身の目標とする人生行路のようにも読み取れる」との評があり、うなずけるところも少なくない。