
ナチス占領下、南フランスのとある田舎町での実話の映画化である。
類似作品がいくつかあるが、この作品には自然に心が濡れる。
1942年、第二次世界大戦のさなかのフランス。スペインとの国境ピレネー山脈のふもとにたたずむ小さな村レスカンで、13歳の少年ジョー・ラランド(名子役ノア・シュナップ)は生活の大半を羊飼いとして過ごしていた。そんなある日、ジョーは山の中で見知らぬ男べンジャミン(ユダヤ人でアーニャの父、義母オルカーダと隠れ住みながらアーニャとの再会を待つ)と出会う。
ナチスの巡回は日増しに厳しくなっていくが、ある日ジョーはナチスのホフマン伍長(「戦場のピアニスト」の名優トーマス・クレッチマン)と知り合い、その穏やかな人柄に惹かれていく。ジョーは、家族はもちろん、ベンジャミンやオルカーダのほか、レスカンの村人たちと心を一つにして、ユダヤ人の子供たちの救出作戦(「移牧プラン」)を美しいピレネー山脈で羊を飼いながら展開するが、ナチスの監視の目は厳しく、途中ホフマン伍長の心温まる機転により、「九死に一生を得て」何とか生き延びる。
ピレネー山脈の美しい山並みを、多くの羊たちを引き連れながら新たな放牧地を求めて、村人たちと時に羊のお乳を搾り、時に山小屋を見つけて休息しながら、生き延びていく姿に胸を打たれる。
ベンジャミンが待ち焦がれていた愛娘アーニャは果たして帰ってくるのか・・・・。そんなある日のこと、見知らぬ電報が入ってくる。ジョーはアーニャからの電報に違いないと、彼はアーニャを求めて山すそを転がりながら走っていく・・・。父を求めて駆け出してきた少女は果たして?・・・。
ナチスのユダヤ人迫害にはアンネ・フランクの「アンネの日記」をはじめとして、悲劇的な実話が多く、大戦の傷跡が今も深く心に突き刺さる物語が多いが、こうした中で、ナチスの将校の中にも心温まる人物がすくなくなく、大戦の中でこうした人物との交流や、「隠された美しい実話」には心が惹かれる。この映画の下敷きとなったマイケル・モーバーゴの「アーナヤはきっとくる」は当時永世中立国であったスペインとの国境近くの小さな村レスカンに住む、13歳の羊飼いの少年ジョー・ラランドの物語である。しかしその平和な村にも戦争の影が忍び寄ってくる。
ユダヤ人救出のために「命のビザ」を発給し続けた外交官「杉原千畝」の実話作品も今なお上映館があるが、ともに長く語り続けられるナチス戦禍にまつわる心温まる物語であろう。
残念ながら、「鬼滅の刃」ブームもあってか映画館のソーシャルデイスタンスは、年の瀬を迎え、ビジネス最優先により改悪され、臨席に観客が並ぶスタイルに舞い戻っており、鑑賞環境はいまいちだが、中にはこうした心に残る名作品が名もない場末の映画館でひっそりと上映されていることがある。こうした郊外の小さな映画館では、概して観客も少なく、座席指定を工夫すれば隣席とのデイスタンスを保つことが可能であり、シアターを探して工夫しながらの鑑賞をお勧めしたい。