
長く続いた昭和が終わり、平成がスターとして間もない頃、北海道の東端に位置する釧路の地に日銀の支店長として赴任した。明治期には最果ての地として位置づけられ、札幌から
釧路新聞の一記者として着任してきた若き日の石川啄木が駅頭で詠んだ
「さいはての 駅に降り立ち雪あかり さびしき街にあゆみいりにき」
の名句があまりにも有名だが、当時はその面影は払しょくされ、道東では最大の拠点都市として、製紙や石炭(海底炭)の大手企業が林立、有数の漁業基地としてもそれなりの役割を演じており、同じ管内の隣接帯広地区には酪農や食品,製菓の新興企業が台頭、十勝ワインをPRしたワイン村もオープンして賑わいを見せていた。
一方、広大な原野に広がる自然界はミステリアスそのもので、いくつか謎めいた話題を耳にしたことがあったので、その中の二つをご紹介したい。
一つは「サケはなぜ生まれた川に戻るか?」である。
寒い冬が終わり、短い春夏を経て秋になると絶品の美味「秋サケ」を求めて各地からこの道東へ釣り自慢が訪れ知床や羅臼、根室、釧路の河口付近に何本もの釣り糸を垂れる。生まれた川に戻ってくる秋サケの大群をめがけての釣魚風景である。このサケは、幼魚の状態で世界の大海に泳ぎ出るが、迷うことなく必ず生まれた川に戻ってくる。産卵前の遡上する姿を目にしたことがあるが、まさしく最適な産卵床を求めて先を競いながら川をさかのぼってくる。大海に回遊後、記憶の川を求めてひたすら遡上、最後の力を振り絞って産卵床にたどりつき、次の世代に命を託す姿にはある種の安らぎと深い感動を覚える。
この謎はなぜか?いくつかの文献をあさったり、土地の古老たちの言い伝えを整理すると①生まれた川の匂いを覚えているとする「嗅覚器官説」、②渡り鳥のように太陽電池を内蔵する「太陽電池説」、③海水の塩分濃度を感知する「塩分探知説」、④染色体内に回帰回路を含有する「遺伝子説」など諸説あるが、これといった決め手はないようで、この神秘さがむしろ謎めいてロマンを感じさせる 。
今一つは「阿寒湖のマリモはなぜ丸いか?」である。
丸いからマリモというのは学術的には正しくなく、マリモの正体は糸状でその集合体は本来不定形だがそれが回転等の運動により球状になるようである。かってはオーストラリアのツエラー湖にも生息していたが環境汚染により絶滅、今では阿寒湖が世界唯一の生息地で天然記念物に指定されている。
丸くなるのはなぜか?これも、川底説、湖水水流説、湖底説、砂上回転説、糸状単体伸長説等諸説あるがいずれも推測の域を出ず、謎のままである。
深緑色の神秘的な輝きは光の角度により濃淡様々に変化、「湖底の至宝」とも呼ばれる。
謎に包まれたこの湖に潜むまん丸い植物の永遠を祈りたい。