
90歳を超えた猛女佐藤愛子が相次いで終末期を迎えた快作を発表して話題を呼んでいる。
一つは「何がめでたい90歳」であり、次いで「それでもこの世は悪くなかった」である。
いずれも彼女の歩んできた波乱万丈の人生経験を切れ味鋭く(虚心坦懐に)披歴したもので、痛快極まりない。時代背景も幸いして、多くの私小説ファンの心をわしづかみにして、三部作とも話題沸騰,大半の書店で平積みされており、すでに読み終えた方も少なからずあるのでは、と思う。
直木賞作家でもあるので、筆力は「さすが」と思わせるところが少なくない。本人は2部作で終結とふんでいたようであるが、あまりの人気に出版社が着目、今回の三作目にたどり着いた。
タイトルは、「気がつけば、終着駅」というこれまた痛快な文庫本であるが、はしがき(「前書きのようなもの」)にも詳述されているように、なんと50年前に婦人公論掲載のエッセーを半世紀ぶりに取りまとめたものが少なからず掲載されている。著者も、「読者に申し訳ない」として当初文庫化をためらっていたが、出版社の「当時の読者はほとんどなくなっているから大丈夫」との悪魔のささやきに折れ、文庫本として再登場したもののようである。
以下、タイトルを列挙すると、その時代を映したものや、彼女の触れ合った作家たち、取り巻きの肉親、父佐藤紅緑、異母兄佐藤ハチロー、生涯のポン友遠藤周作(電話魔)そして北杜夫、川上宗薫などなど多士済々の面々が折に触れ登場する。
第一部 波乱万丈人生編
再婚自由化時代(1963年 40歳)
三人目の夫を求めます(47歳、1971年)
追悼遠藤周作(73歳、1996年)
子供(42歳、1966年)
母、娘、私、たぎる血気は争えず(72歳、1996年)
第二部 老いの心境編
人生の終盤、欲望も情念も涸れ行くままに(85歳、2009年)
全部失ってごらんなさい、どうってことありませんよ(89歳、2013年)
95歳。死ぬのがいやでなくなった(95歳、2019年)
これらのタイトルから、美貌をほしいままにした彼女の数奇な生き様や鋼のようにタフなものの考え方がほうふつと浮かんでくる。
巻末では、同世代でなお現存の脚本家橋田寿賀子との対談「物書きの人生と理想の最後」(95歳、2019年)があり、橋田からの「私も書くことがだんだん好きになりました。幸せです。終わりよければすべてよし」との語りかけに対し、著者はラストメッセージとして共感をこめつつ「好きなことをして一生を終えるのが、人間にとって一番の幸福じゃあないかしら。たとえどんなに苦しい思いをしたとしても」とすっきり締めくくり、一連の三部作の幕を閉じる。
終末期を扱った作品としては、このほか五木寛之の「孤独のすすめ」や「百歳人生を生きるヒント」などもある。彼女ほどの切れ味はなく大衆人気はいまいちだが、それなりに示唆に富んだ読ませどころは少なくないので、暇のつれづれにお薦めしたい。