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石原慎太郎の絶筆「死への道程」と四男の葬送文

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某月刊誌4月特別号に掲載された石原慎太郎の絶筆「死への道程」を読んだ。わずか6ページながら中身の濃い慎太郎らしい含蓄のある遺稿だが、ここでは画家の四男が「父は最後まで『我』を貫いた」とのサブタイトルを付してこの月刊誌に葬送文を書き送っている。以下、このレクイエムを紹介したい。

余命宣告を受けてから臨終までベッドの脇で、時にお腹をさすりながら、時に流れる涙をぬぐいながら、つぶさに看取った愛する父へのレクイエムであり、読み進むにつれ慎太郎の生きざまが彷彿とよみがえる。

「最後まで足掻いて、俺は思いっきり女々しく死んでいく考えだ」昨年12月半ばごろ、病床の父がいつもより強い調子でこう言った、との書き出しでこの葬送文は始まっている。

印象に残ったくだりを抜粋すると、以下のような文面があげられる。生前の彼をほうふつとさせるところが随所に感じられるが、それにもまして「作家や政治家としてもさることながら、画家としての隠れた才もあちこちに感じさせた父を死の間際まで敬愛してやまなかった四男の熱い想い」がそこかしこに伝わってきて、読みながら涙を禁じ得ない。

・昨年10月、すい臓がん再発後、医師から「余命3か月」を宣告されたときの心境を正直にこの絶筆に書き綴ったものだが、宣告後どう声を掛けたらいいかわからずに、思わず「正岡子規の『病状六尺』ではないが、今の心境を描写していったら?」というと、思わず「俺は日記を書く」と父は答えたが、実際に書いたのはこの絶筆原稿である。

・「年は越せるかもしれないが、来春の桜は観られないだろう」私たち家族は覚悟した。年が明けると、一日中寝て過ごすことが増え、亡くなる二週間前には愛用のワープロは開いていても文章の途中に文字化けが増え、書くのを断念した形跡があった。もう体力の限界だったと思う。それでも、突然「よし、春には孫も全員連れて瀬戸内海に行くぞ」と言い出して皆を驚かせたこともあった。最後に話をしたのは、亡くなる五日前の1月27日のことだ。

・臨終間際に、「ビールを飲みたい」と言い出して一番小さいのを一缶飲み切った。「おいしいか?」と尋ねると「うまいねえ」と満足げに答える。この時とばかりにお腹をさすってあげながら父が元気なころの話を少しした。「今しばし 死までの時間あるごとく この世にあはれ 花の咲く駅」、この書き出しで始まる京都学派歌人上田閑照さんの随筆「折々の思想」のプロローグを朗読してあげた際に、「こういう良いエッセイにはどこで出会うの?」と聞かれ、答える間もなくそのまま眠りに落ちてしまった。父との最後の会話らしい会話だった。

・私にとっての父はアーテイスト、表現の大先輩だった。アーテイストが時に物書きになり、政治家になった。絵も非常にうまくて才能があった。画家を志望していたこともあり、私たち兄弟は子供のころから絵画教室に通わされた。放任主義の父だったから、アートの道に進んでからも、たまに批評をもらうのみで具体的なアドバイスをもらったこともない。ただ、常に感覚、感性の話はしていた。

・ある時、病床の父からふと「俺の人生で一番の仕事って何だったんだろう?」と問われた。私が答えを模索していると、「創造的な世界に一つのやり方を投げかけることはできたような気がする」、独り言のようにぽつりと言った。最後までアーテイストだった。もっといろいろと聞きたかったし話したかった。それがもうかなわないのが寂しくてならない。

葬送文の最後はこのように締めくくられていた。  

慎太郎より六歳年下で広島出身の妻典子は、女学生の頃から慎太郎作品の熱烈ファンで思いがけなく妻の座を射止めたが、生涯決して表に出ることはなく、四人の子供たちの子育てに文字通り粉骨砕身し、夫の死の直後、そのあとを追うように83歳の生涯を閉じた(某月某日、小さな病没記事が主要紙に掲載されたが、目にとめた人も少ないのでは?)。

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