
いろいろと考えさせられるところの多いフランス映画にしては、珍しく後味のいいハッピーエンドのさわやかな映画を観た。
しかも最近多く見かける動物もののワンちゃん物語でもある。
時は1919年第一次世界大戦後のフランス、美しい片田舎で、主人を待ち続ける一匹の犬と勲章にまつわる秘話で、美しい若者のラブロマンスも絡んだ実話の映画化である。
鬱陶しい暑さの中、昼夜を問わず吠えたてる一匹の黒い犬に、留置所の役人たちはいつもうんざりしてじゃけんに当たったりしている。
すでに戦争も末期、収監人がほとんどいないシャトラン県の留置所には、その犬の飼い主である若い戦士が収監されていた。彼は先の戦争で武功を挙げレジオンドヌール勲章を受勲した英雄だが何故か収監されている。彼の名はジャック・モルラック(ニコラ・デユヴオシェル)。ふてくされた態度で何も語ろうとしない。
国賊的疑惑のある彼に判決を下すべく、理想高き職業軍人であった軍判事のランテイエ少佐(フランソワ・クリュゼ、仏話題作「最強のふたり」を熱演)がこの地を訪れる。少佐にとってこれは終戦と彼自身の職務からのリタイアをもたらす最後の仕事でもあった。
ジャックは、美しい妻と息子に引き裂かれるように戦に駆り出されたことに当初強い反感をもつが、最大の主戦場であったソンムやテッサロニキ戦ではロシア軍とともに勇猛に戦い多くの武功を打ち立てレジオンドヌール勲章まで受ける。
ただ、戦場での大けがと留守中の妻の浮気現場の目撃(誤解)ですっかり意欲をそがれ、反抗的態度に拍車がかかる。ジャックは国家が与えた栄誉ある勲章を、こともあろうか革命記念日の式典でこの愛犬に与えた罪により収監されていた。しかし、愛犬は主人であるジャックの心の動きやについて一部始終をみつめており、少佐の犬へのさりげない思いやりが、疑惑を次第に解きほぐしていく。
第一次世界大戦では、多くの動物とりわけ戦闘犬ボースロン(ドーベルマンの原種)が数十万頭も地雷処理現場などで使われたという歴史的事実があり、原作「赤い首輪」ではこのあたりの記述が詳しくなされているという。
都心の名画座でのロングラン上映であり、映画通にしか理解しにくいところもあるので、観客は少なかったが、歴史的事実と人間主義(動物愛)をうまく織り込んだ佳作である。
原作者のジャン・クリストフ・リュアンは著作の傍ら医師、外交官としても活躍、セネガルとザンビアではフランス大使を務め、「国境なき医師団」の創設者でもある。作家としても一流で、2001年刊の「ブラジルの赤」ではフランスで最も権威ある文学賞ゴンクール賞を受賞している。