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カズオ・イシグロの「生きる」を観る

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久しく映画鑑賞ブログを離れていたが、この間もシネコンには足しげく出かけていた。

ただ、あまり心に残る作品はなく、週末の時間つぶしの感が強かった。

そうした中で、心に刺さり考えさせられたのがノーベル文学賞作家カズオ・イシグロ原作脚本のこのリメイク版「生きる」である。

黒沢明監督は日本映画界の生んだ屈指の巨匠であり、「羅城門」などアカデミー賞作品をいくつもものにする大監督としてあまりにも有名だが、その「世界のクロサワ」が42歳という新進気鋭時代にメガホンを握ったのが志村喬主演の「生きる」であり、無類の映画好きで黒沢監督を尊敬してやまないカズオ・イシグロは70年の歳月を経て、英国映画としてリメイクさせたいとの思いから、さっそく映画作りでは英国きっての敏腕プロデユーサーに相談、自らは本業の原作者・脚本家としてペンを走らせたという。

ストーリーはロンドンを舞台にしたとある英国紳士の物語である。ロンドン市役所市民課長のウイリアムズはピン・ストライプの燕尾服に山高帽のいかにも堅そうな英国紳士であり、妻に先立たれ間もなく定年を迎えるが、タバコがおいしくないため念のために受けた市役所の健康診断で末期ガンを宣告される。職場ではいかめしい風貌の中に垣間見せる思いやりがさりげなく、部下の若者たちにこよなく慕われる魅力的な人物だが、家庭では頼みの息子夫婦からは遺産目当てがちらつき会話も進まずぎくしゃくしている。

そんなある日のこと、仕事をてきぱきとこなし若々しくチャーミングな部下のマーガレットに惹かれ、食事をしたり映画を見るようになり、彼女に家庭内の悩みも打ち明けたり、仕事での生きがいについてアドバイスを求めるようになる。いくつかアドバイスを受ける中で、みんなのくつろぎの場である公園づくりに老後の生きがいを見出すようになるが、マーガレットは周囲の視線も意識して次第にウイリアムズと距離をとるようになる。ウイリアムズは孤独の寂しさを紛らわすように公園づくりにのめりこんでいくが、病魔には勝てず、ラストでは敬慕する部下たちが在りし日のウイリアムズを回想するシーンでエンデイングを迎える。

このウイリアムズを演じたのは、英国での舞台・映画界で50年にわたり君臨した名優ビル・ナイである。プロデュースしたステファン・ウーリーも著名だが、メガホンを握った撮影監督にはさほどの手腕はなく、黒沢監督にくらべ「見劣りは否めない」との評もある。

ただ、気鋭の黒沢監督がメガホンを握った当時の日本は、敗戦後の虚脱感が漂う1952年のことである。とある田舎町の市役所職員である主人公志村喬(往年の名優)はやはり末期がんを患い失意のさなかにあって、ふとした機会に出会った奔放な少女小田切みか(新人女優)に惹かれていき、彼女からは「ミイラ」とののしられ、邪険にされながらもあきらめがつかず、ラストでは「ゴンドラの歌」を口ずさみつつ、ブランコに揺られながら静かに臨終のときを迎える。

このむつかしい役どころを志村喬は渾身の力を込めて見事に演じており、実生活でも「胃潰瘍に侵されクランクアップ後しばし闘病を余儀なくされた」との逸話も残っている。

同じラストシーンでも、リメイク版の英国映画ではやはり公園のブランコに揺られながら声高にはしゃぐ子供たちの姿が明るい未来を暗示するように、はつらつと描かれており、それぞれの時代の二つの国の彼我の差に、一抹の寂しさを禁じ得ない。

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