
推理小説界で一世を風靡したあのアガサクリスティー(全世界での小説発行部数はなんと20億冊以上といわれている)の「オリエント急行殺人事件」映画化大成功にあやかって、同じポアロ物の「ナイルに死す」が、「ナイル殺人事件」というタイトルで再度映画化された。原題は「DEATH ON THE NILE」となっており、「ナイルに死す」のほうがピッタリだろう。英国の誇るシェイクスピア名優ケネスブラナー(私生活でもトップ女優エマトンプソンとの結婚でも有名)が、監督・脚本・主演で大活躍しており、推理小説を読みふけった往年のアガサファンはもとより、映画ファンの間でも長く語り継がれてきた待望作品の映画化である。
いつものデイズニー併設シネコンでの上映とあって、同じ推理小説大ファンのワイフといそいそと足を運んだ。アカデミー賞の呼び声が高い村上春樹原作の「ドライブマイカー」も同時期に同じシネコンで上映されており、若干食指が動いたが、こちらは3時間もの長時間上映がネックとなり、やむなく断念した。
話題作とあって、さすがにオールドファンが結構足を運んでいたが、1000人は収容可能なビッグシアターということもあり、ソーシャルデイスタンスはきっちりと確保されており、鑑賞環境は申し分なかった。
第一次世界大戦さなかの1914年のベルギーでの戦闘シーンでスクリーンは始まり、「飛び立つ鳥の群れと雲行きから闇夜の奇襲」を計画し、この見事な推理作戦を上官に具申して大成功を収めた若き日のポアロ軍曹は、ドイツとの東部戦線で大きく名をはせており、最愛の恋人との終戦後の病院でのめぐり逢いシーンも展開されるが、この史実は「果たしてポアロの実像なのか?」、鑑賞後、ワイフとのコーヒーをすすりながらの語らいの場でもお互に?マークの消えなかった話題であった。
小説でもそうであったように、ストーリーは、あの世界的観光地エジプトナイル川を運行する豪華客船の密室での殺人事件がメインで、財宝豊かな若手富豪と美しい女性たちとの愛と嫉妬が渦巻くラブストーリーである。ポアロの推理力もさることながら、ステッキや拳銃さばきも見事で、古典的アクションものとしての魅力にも事欠かない。「容疑者は乗客全員、愛の数だけ嫉妬と秘密がある」、魅力満載の美しい映像がスフィンクスの脇をゆったりと流れるナイル川の豪華客船の中で観客をハラハラドキドキさせながら、ご自慢の口ひげを蓄えたポアロを軸に、ミステリアスに繰り広げられる。
犯人が判明し事件一段落後、容疑者に祭り上げられた貴賓の乗客から、下船の折に「ポアロさん、あなたは切れ者かもしれないがあまりにもひどい。ロンドンに帰ってからも赤の他人で過ごしましょうね」と皮肉たっぷりに別れを告げられ、戸惑うシルクハットに口ひげ紳士(ポワロ)の言いようのない悲しげな表情がラストシーンを飾るが、これもケネスブラナーの原作にはなかった、スクリーン上のちょっとワサビのきいたお遊びのようである。